Column · Vol.01

線路を敷いた会社は、ほとんど儲からなかった

「AIで儲かるのは誰か」を、180年さかのぼって考える

この記事の数字は、出典を実際に開いて確認できたものだけを載せています。 リンクは本文中に貼ってあるので、気になったところは直接見に行ってください。 なお、これは投資の助言ではありません。歴史のパターンと、いま出ている数字を並べただけの記事です。

1840年代のイギリスで、いちばん賢い投資だと言われていたものがあります。鉄道の株です。

みんな、この新しい乗り物にお金を出せば儲かると思っていました。

どれくらいの熱気だったか。イギリス議会の記録によると、1846年の1年だけで、700本を超える鉄道の法案が議会に提出されています。審査する委員会が入りきらなくて、国会議事堂の外に木造の仮設部屋を建てたほどでした。

1845年から47年までの3年間で、8,590マイル(約13,800km)ぶんの新しい路線にOKが出ます。

その数年後です。

鉄道株の値段は、いちばん高かったときの3分の1近くまで落ちました。貯金ごと吹き飛んだ家族が、たくさん出ます。

でも、線路そのものは残りました。イギリスは1910年までに、20,000マイル(約32,000km)の鉄道を持つ国になります。

その線路の上でモノを運んで、あとから儲けた人たちが出てきます。

この形、いま起きていることと、ほとんど同じなんです。

初めてこの話を知ったとき、正直ちょっとゾッとしました。

「AIに投資すれば儲かる」って、本当?

いま投資家の間で、こんな話が出ています。

「OpenAIやGoogleみたいな、AIを“作る側”にお金を出せば、本当に儲かるのか?」

普通に考えたら、儲かりそうですよね。世界中がAIを使い始めているんだから、作っている会社が一番おいしいはずだ、と。

ところが、数字を見ると、話はそう単純じゃありません。

2026年、Amazon・Google・Meta・Microsoft・Oracleという5つの大きな会社があります。

この5社が使うお金の合計は、およそ6,600億〜6,900億ドル。1ドル150円で計算すると、およそ100兆円です。

これは「設備投資」と呼ばれるお金です。会社が、建物や機械を作るために先に払うお金のことです。

中身はデータセンター(AIを動かすための巨大な建物)と、電気代。あとは、そこに詰めるAI用の半導体(AIの計算をする部品)です。

あまりに額が大きいので、あのAmazonでさえ、今年は手元に残るお金がマイナスになる見通しだと言われています。

先に、ものすごい額を埋める。回収するのは、あと。

この形を、人類は前にもやっています。しかも、何度も。

歴史のパターン:線路を敷いた会社は、意外と儲からなかった

鉄道(1840年代・イギリス)

株価がいちばん高かったのは、1845年の8月でした。バブル(みんなが浮かれて値段が上がりすぎる状態)の頂点です。

そこからどう落ちたのか。クイーンズ大学ベルファストのガレス・キャンベルという研究者が、当時の新聞に載っていた株価の表を1843年から1850年まで集め直して、指数を作っています。

その指数は、ピークの1,984から、底の673まで下がりました。66.1%の下落です。

なぜ、ここまで落ちたのか。キャンベルの論文が挙げているのは、「安く買えてしまう仕組み」そのものでした。

当時、鉄道株は代金の全額を払わなくても買えたんです。最初に払うのは、平均で1割未満。残りは「あとで請求します」という約束でした。

だから、みんな自分の手持ちより多くの株を買えてしまった。

そして建設が始まると、鉄道会社から「残りを払ってください」という請求が何度も来ます。払えない人は、株を売るしかない。売られるから、値段が下がる。値段が下がるから、もっと払えなくなる。

この繰り返しが、下落を加速させました。

ただ、線路そのものは残りました。そのあと長いあいだ、モノを運ぶコストを下げ続けます。

光ファイバー(1990年代後半〜2000年代初頭・アメリカ)

インターネットがこれから来る。通信の量がどんどん増える。そう信じた通信会社が、アメリカじゅうに光ファイバー(光でデータを送るガラスの線)を埋めました。

そして、そのうちの何社かが、潰れます。

いちばん大きかったのが、WorldComという通信会社でした。2002年7月21日に破産を申請しています。当時のアメリカ史上、最大の倒産だと報じられました。

この会社の調査報告書は、いまもアメリカの証券取引委員会(SEC)のサイトで読めます。それによると、90億ドルを超える嘘の会計処理がおこなわれていました。そして不正が発覚したあと、帳簿に載っていた資産のうち、およそ800億ドルぶんが「なかったこと」として消されています

同じ年には、海底ケーブルを世界中に敷いていたGlobal Crossingという会社も破綻しました。

ここで、いちばん大事なところを書きます。

彼らの予想は、外れていませんでした。

「インターネットは、これから巨大になる」——これは合っていたんです。むしろ、彼らが想像していたよりずっと大きくなりました。

外れたのは、それがいつ来るか。そして、その果実(儲け)を、最終的に誰が受け取るか。この2つでした。

なお、正直に書いておきます。

「どれくらい敷きすぎたのか」については、専門家のあいだで議論があります。ウェズリアン大学のホーゲンドーンという研究者は、通信会社どうしが同じ回線を何度も売り買いしていたので、余っていた設備は世間で言われているほど多くないはずだと指摘しています。

それでも、会社が実際に潰れたことと、その設備があとから別の誰かの手に渡ったことは、変わりません。

じゃあ誰が儲けた?——“使った側”の話

倒産した会社が埋めた回線は、消えたわけではありません。地面の中に、そのまま残りました。

そして、そのインターネットの土台の上で大きくなったのが、Google・Amazon・Facebook(今のMeta)といった会社です。

線路を敷いた人が破産して、その線路を走った人が、世界一の会社になった。

えぐい話ですよね。でも、これが1回きりの偶然じゃないところが、この記事のこわいところです。

ここで、よく聞く例え話を1つ、訂正させてください

「ゴールドラッシュ(金を掘りに人が殺到した時代)で儲けたのは、金を掘った人じゃない。ツルハシ(金を掘る道具)を売った人だ」

この話、よく聞きますよね。これはこれで、事実です。

サム・ブラナンという商人がいました。金鉱のそばで、鉱山の道具や食料を売る店をやっていた人です。

アメリカの公共放送PBSによると、彼の店は1日で最大5,000ドルを売り上げました。2005年のお金に直すと、1日でおよそ12万ドル。1ドル150円で換算すると、1日1,800万円くらいです。

ブラナンは1850年代から60年代にかけて、「カリフォルニアでいちばん金持ちの男」と呼ばれました。金を掘ってではなく、掘りに来た人に道具を売って、です。

でも、この話を「じゃあAIも、道具を売る側が勝つんだな」とまとめてしまうと、半分間違えます。

ツルハシを売る商売と、線路を敷く商売は、まったくの別物だからです。

  • ツルハシ:作るのが安い。売れ残っても、在庫を抱えるだけで済む。(AIでいえば、半導体を作る会社)
  • 線路・光ファイバー:先に何兆円ものお金を埋める。予想が外れたら、そのお金は戻ってこない。(AIでいえば、データセンターを作る会社)

実際いま、ツルハシ側にいるNVIDIA(エヌビディア。AI用の半導体を作る会社)は、2026年の1年間で、売上2,159億ドル、純利益(最終的な儲け)1,200億ドル、粗利率(売上からコストを引いて残った割合)75%を出しています。ツルハシは、今回もちゃんと売れているんです。

危ないのは、そのツルハシを買って、穴を掘りまくっている側のほうです。

もっと大きな謎:世の中全体で、富は増えているのか

ここからが、この記事でいちばん面白いところだと思っています。

仮に、AIがみんなの仕事を2倍速くしたとします。あなたの会社も、ライバル会社も、同じAIを使っている。

すると何が起きるか。値下げです。

1時間かかっていた仕事が20分で終わるようになったら、お客さんは「じゃあ安くして」と言います。お客さんが言わなくても、ライバルの会社が先に値段を下げます。

つまり、効率化して浮いた分は、かなりの割合でお客さんのほうへ流れていくんです。

「じゃあ結局、世の中のお金は増えてないのでは? ただ安くなっただけでは?」

この疑問に答える、ちょっと衝撃的な研究があります。

ウィリアム・ノードハウスという経済学者がいます。2018年にノーベル経済学賞をもらった人です。

この人が、戦後のアメリカで生まれた新しい技術をたくさん調べて、こういう数字を出しました。

新しいものを作った人が、実際に自分の手元に受け取れるのは、その技術が生んだ価値のうち、およそ2.2%だけ。

残りの98%近くは、それを使う消費者のほうへ流れている、という話です。

2.2%ですよ。あれだけ苦労して作って、たった2.2%。

だから、さっきの疑問への答えは、こうなります。

世の中の富は、ちゃんと増えています。ただ、増えている場所が違うんです。「作った会社の口座」ではなく「使う人たちの生活」のほうに増えている。値下げは、富が消えたわけじゃありません。行き先が変わっただけです。

そして、ここが大事なところなんですが。

あなたは、その98%を受け取る側の席に、もうすでに座っています。

今日から。無料か、月に数千円で。

答え:安くやる人ではなく、“今まで不可能だったこと”をやる人

ただし、落とし穴があります。

「AIを使えば安くできる」というのは、あなただけが見つけた発見ではありません。同じAIを、同じ月額で、ライバルも使えます。

だから「今までと同じことを、安く・速くやる」という方向でいくと、その値下げ分はまるごとお客さんに渡って終わります。さっきのノードハウスの2.2%の話は、個人の商売にも、そのまま起きるということです。

では、何が違うのか。

「安くやる」ことと「今までできなかったことをやる」ことは、お金の行き先が違うんです。

ここから、自分の話を書きます。

英語の答案を採点するのが、私の仕事の一部でした。これまでに8,000枚以上、見てきました。

その1枚にかかる時間をAIで短くする——これは「安くやる」です。誰にでもできるし、すぐに値下げ競争になります。

でも、8,000枚を見てきたから分かることがあるんです。答案には「どこで間違えたか」だけじゃなく、その子がどこで英語をあきらめたかも書いてあります。字が急に雑になる場所とか、途中でやめてしまった記述問題とか。

今までは、それを言葉にして親御さんに渡すのに、1枚あたり相当な時間がかかっていました。だから、ずっと商品にできなかったんです。「やりたいけど、無理だな」と、10年くらい寝かせていました。

AIが下書きを手伝えるようになって、これがはじめて「渡せるもの」になりました。

これは値下げじゃありません。去年までは、存在しなかったサービスです。

見分け方は、たぶんこの1問だけで足ります。

その仕事、去年のあなたなら「時間がないから」と断っていましたか?

はい → 新しい富になる可能性がある
いいえ(今までもやっていた) → たぶん、値下げになる

だから、問いが変わります。

「AIの株は買いか?」から、「私はAIで、何を新しく始めるのか?」へ。

立場が変われば、次の一手は変わる

ここまでの話は、立っている場所によって意味がまるで変わります。5つの目線で書いてみます。

どれも「こう考える人もいる」という材料です。決めるのは、ご本人です。

💼 投資家の目線

歴史のパターンは「インフラ(線路や回線などの土台)を作った側は、報われないことが多い」でした。

ただ、今回は少し違うかもしれない材料もあります。

Googleの2026年4〜6月の売上は1,198億ドル。前の年の同じ時期より24%増えました。クラウド部門(企業向けにコンピューターを貸す事業)だけを見ると、247億ドルで、82%も増えています。

OpenAIも、2025年末で1年分に換算した売上が約200億ドル。1年で3倍になったと言われています。

作る側が、今回はちゃんと売上を立てているんです。

一方で、鉄道や光ファイバーとの、決定的な違いを指摘する声もあります。

光ファイバーは25年以上使えます。でもAI用の半導体は、実際に使える期間が2〜3年しかないんじゃないかという議論があります(会社の帳簿の上では、5〜6年かけて価値を減らして計算していますが)。

線路は残る。でも、AI用の半導体は、残らないかもしれません。

問い:あなたが賭けているのは「AIが世の中に広まること」ですか。それとも「この会社が、その儲けを受け取ること」ですか。 歴史上、この2つは何度も、別々の答えになってきました。

🏢 経営者の目線

たぶん一番おいしい席は、AIを作る側でも、AIに投資する側でもありません。すでにお客さんを持っている側です。

線路を敷く必要がない。もう自分のお客さんがいる。あとは、そこにAIを混ぜるだけでいいんです。

アレックス・ホルモジという起業家がいます。2026年の発信で、こんなことを言っています。「あなたはAI企業になる必要はない。昔みんながインターネットを当たり前に使い始めたのと同じように、AIを普通に組み込めばいい」

問い:あなたの会社が今まで「お客さんに断ってきたこと」のリストは、どこにありますか。 新しい富は、たぶんその紙の上にあります。

👤 一般社員の目線

ここは、きれいごとを書かないほうがいいと思うので、そのまま書きます。

スタンフォード大学デジタル経済研究所が、2026年8月に分析を出しました。

22〜25歳の若い人たちを比べます。AIの影響を強く受ける仕事についた人は、そうでない仕事についた同世代の人より、雇われる人の数が約19%少ないんです(1年前は15%でした)。

ただし、これは「クビになった」という話ではありません。多くは「新しく採用されなくなった」ことによる減少だと分析されています。

そして、同じ研究で、もう1つ分かっていることがあります。

AIが人の作業を代わりにやる仕事では、雇用が減ります。でも、AIが人を手伝う仕事では、雇用は横ばい、むしろ増えています。とくに経験のある人で増えているんです。

問い:あなたの仕事でAIは、あなたの代わりをしていますか。それとも、あなたの手を増やしていますか。 同じ職場の中でも、人によって違います。

🏠 一般家庭の目線

ここは、いちばん有利な席かもしれません。

さっきの98%を思い出してください。技術が生む価値の大半は、使う人のほうへ流れます。しかも今回は、投資も専門知識も、ほとんどいりません。

総務省が出している情報通信白書という調査があります。それによると、日本で生成AI(文章や画像を作れるAI)を使ったことがある人の割合は58.8%。前の調査では26.7%だったので、1年で2倍以上になりました。ちなみに中国は93.6%です。

問い:この1年で、あなたの家の「面倒くさい」はいくつ減りましたか。 ゼロなら、それは知識が足りないんじゃなくて、まだ1回も渡していないだけです。

🧒 子どもたちの目線

英語を教えているので、この質問は本当によく受けます。

「AIが翻訳してくれるなら、英語なんて勉強しなくてよくないですか?」

私の答えは決まっています。それでも、やらせます。

(ここ、たぶん英語の先生としてのポジショントークだと思われるので、理由をちゃんと書きます)

理由は、ここまでの話とまったく同じです。AIを使いこなす人が強いのは、AIが出したものが良いか悪いか、自分で判断できるからなんですね。

英語がまったく分からない人が、AIの英訳を見ても、それが失礼な言い方かどうか分かりません。判断できない人は、AIを使えているように見えて、実はAIに決められているんです。

そしてこれは、たぶん英語だけの話じゃありません。

歴史を見ると、線路の上を走って勝った人たちは、みんな線路の外側に、自分の持ち場を持っていました。Amazonは本の売り方を知っていた。Googleは情報の並べ方を知っていた。

AIは、その人がすでに持っているものを、大きくする装置なんです。

0を何倍しても、0のままなんですよね。

問い:あなたのお子さんの「0じゃない部分」は、何ですか。

で、あなたはどうする?

ここまでを地図にすると、こうなります。

立ち位置何をしている人歴史が言っていること
ツルハシを売る半導体を作る今のところ、勝っている
線路を敷くデータセンターに巨費を投じる歴史上、いちばん危ない席
線路を走るAIを自分の商売に混ぜるここに価値が流れてきた
線路の上に住む消費者・一般家庭何もしなくても得はする。ただし“得”どまり

そして、線路を走る側の中でも、道が2本に分かれます。

1本は「今までと同じことを、安くやる」道。舗装されていて、走りやすくて、みんなが走っています。だからその先に待っているのは、値下げ競争です。

もう1本は「今までできなかったことを、やる」道。こっちはぬかるんでいて、誰も走っていません。手本もない。失敗もします。

私自身は、後者にいます。ぬかるんでいます。普通に転んでいます。

それでも、答案8,000枚という私にしかない持ち物を、AIではじめて商品にできました。だから、この道を走る価値はあると思っています。

偉い人の抽象的な話を、地上のあなたの現場の1手に翻訳する。そこが私の持ち場です。

なので、ここで答えを言い切るのはやめておきます。かわりに、質問を2つ、置いていきます。

あなたが去年、「やりたいけど時間がないから」と諦めたことは、何でしたか。

それ、今のAIならできますか?

Sources

この記事の数字は、公的機関・企業の公式発表・学術論文・大手報道からのみ取っています。Wikipediaや個人ブログは使っていません。

鉄道バブル(1840年代・イギリス)

光ファイバーバブル(1990年代後半〜2000年代初頭・アメリカ)

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